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《十六夜》は、満月の翌夜にゆるやかに昇る月を意味する古語を題に冠した作品です。満ちた光が少しずつ静けさへ移ろう、その繊細な時間の気配が、画面全体を包む穏やかな余韻として表現されています。正面を見つめる女性は、細く長い首や端正な面立ちによって現実を超えた存在感を宿し、鑑賞者へ静かな対話を投げかけているかのようです。 黒い帽子や胸元を彩る金色の装飾は、中世ヨーロッパやビザンティン美術を思わせる格調を備えています。一方で、背景や衣装には厚く重ねられた絵肌や立体的なレリーフ表現が施され、絵画でありながら工芸作品のような豊かな質感を生み出しています。光の当たり方によって陰影が変化し、静かな画面に奥行きと時間の流れを感じさせる点も、本作ならではの魅力です。 幻想的な女性像で知られる宝永たか子は、井上直久に師事し、絵本や装画、タロットカードの制作など幅広い分野で創作を続けてきました。1990年代には渡仏して個展を開催し、その後も全国の百貨店美術画廊を中心に作品を発表。古典美術への憧憬と独自のマチエールを融合させた表現は、多くの人を惹きつける幻想世界を築いています。 華やかな金彩の輝きと、どこか儚さを秘めた女性のまなざし。その二つが響き合う《十六夜》は、静寂の中に気品と物語を宿した、宝永たか子らしい世界観を映し出した一作といえるでしょう。