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平子真理《鹿の森》は、母鹿と子鹿が霧立つ森を静かに駆ける一瞬を描いた日本画です。柔らかな若草色と青みを帯びた霞が画面全体を包み込み、木々の間に漂う湿った空気まで感じられるような、透明感あふれる世界が広がっています。親子の穏やかな歩みに寄り添うように、奥にはもう一頭の鹿が静かに佇み、森そのものが命を見守る存在として描かれている点も印象的です。 本作で目を引くのは、子鹿の軽やかな跳躍です。母鹿の落ち着いた歩調とは対照的に、無邪気な生命力を宿した姿が画面にリズムを生み、静寂の中にも確かな躍動を感じさせます。日本画ならではの繊細なぼかしや重ねられた彩色によって、鹿の毛並みや木肌の質感は写実的でありながら、現実を超えた詩情をまとっています。 平子真理は1962年神奈川県生まれ。東京藝術大学日本画専攻を卒業後、院展への入選を重ね、現在は日本美術院院友として活動しています。動物や水辺、異国の風景など自然を主題に据え、生命への温かな眼差しと澄んだ色彩表現によって独自の画境を築いてきました。ブータンへの取材旅行や作品集・絵本の制作など、多彩な活動を通じて自然と人とのつながりを描き続けている作家です。 《鹿の森》は、鹿という吉祥の象徴を通して、親子の絆や命の循環、森に宿る静かな豊かさを優しく語りかける一作です。四季を問わず穏やかな空気をもたらし、暮らしの空間に深い安らぎを添えてくれる作品といえるでしょう。