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有元利夫は、古代やルネサンス、バロックの美術に深く惹かれながら、独自の静謐な人物像を描き続けた画家です。音楽への造詣も深く、自らも音楽を愛好した有元にとって、絵画と音楽はともに、目に見えない時間や感情を形にするものだったのでしょう。本作は、ドイツ・バロックの作曲家ゲオルク・フィリップ・テレマンの「水上の音楽」に着想を得た《12pieces of BAROQUE MUSIC》の一作です。 画面に漂うのは、物語を直接語るような人物ではなく、どこか遠い時間の中に佇んでいるような存在です。淡く抑えられた色調と銅版画特有の繊細な線描が重なり、現実の人物というよりも、記憶の底から静かに浮かび上がるイメージのような趣を生み出しています。人物を包む線も、単なる背景としてではなく、音楽のリズムや旋律を視覚化したもののように感じられます。 有元作品にしばしば見られる、古典的な造形を思わせながらも現代的な孤独を湛えた人物像は、本作でも印象的です。明確な情景や感情を描き切らず、見る人の記憶や想像によって完成する余白を残している点に、有元利夫ならではの魅力があります。音楽が耳に残る余韻を生むように、本作もまた、静かな画面の中に長く心に残る時間を感じさせてくれます。

