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島田章三の《静物》は、身近な器物を題材としながら、単なる静物画にとどまらない造形的な魅力を湛えた作品です。卓上には白い花器や果実、グラス、洋書などが配されていますが、それぞれは写実的な再現を目的とするのではなく、面と線のリズムによって巧みに再構成されています。 赤褐色や深い緑、黒を基調とした落ち着いた色彩が画面全体に重厚な響きを与え、そこへ白い描線や明るい色面がアクセントとして加わることで、静かな緊張感と豊かな奥行きが生まれています。 一見すると雑然と配置されたモチーフも、視線を巡らせるうちに互いが呼応し合い、画面全体が一つの有機的な構成としてまとまっていることに気づかされます。特に中央の花器は画面の軸となり、その周囲に置かれた果実やグラスが旋律のように配置されることで、静物でありながら音楽的なリズムさえ感じさせます。対象を忠実に描くことよりも、形や色彩が生み出す秩序と調和を重視した島田らしい造形感覚がよく表れた一作といえるでしょう。 島田章三は神奈川県横須賀市に生まれ、東京藝術大学在学中に《ノイローゼ》で国画賞を受賞し、戦後日本洋画界を代表する具象画家として活躍しました。1967年には《母と子のスペース》で安井賞を受賞し、その後のヨーロッパ留学ではキュビスムの造形思想から大きな影響を受けます。 帰国後は対象を幾何学的に再構成する独自の表現を発展させ、「かたちびと」と呼ばれる世界を築き上げました。また、愛知県立芸術大学で長年にわたり後進を育成し、日本芸術院会員、文化功労者としても高く評価されています。 本作にも、そのキュビスム的な構成意識と、対象への温かな眼差しが自然に溶け込んでいます。日常のありふれたモチーフを、豊かな造形美へと昇華する島田章三の芸術性を味わうことのできる、充実した静物作品です。