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ベルナール・カトランは1919年、パリに生まれました。パリ国立高等美術工芸学校でモーリス・ブリアンションに師事し、ピカソやシャガール、マティスらを輩出したパリ派の一員として画業を歩みます。 1957年にはフランス政府の奨学金でメキシコに滞在し、その地で浴びた強い陽光と鮮烈な色彩は、以後の作風を決定づける大きな契機となりました。花や静物を平面的に還元し、明快な色面の重なりとして描き出す独自の様式は、こうした旅の記憶を通して育まれていったといえるでしょう。 本作「ローズ色の背景のアジサイとインドバラ」では、卓上に置かれた二つの器がそれぞれ異なる花の表情を見せています。細身の花瓶に活けられたインドバラは、鮮やかな橙色の丸みを連ねて咲き誇り、対照的に白い鉢からこぼれるアジサイは、淡いピンクから深紅、そして純白へと色調を変えながら、ひとつの房のように寄り添っています。 花びらの輪郭を厳密になぞるのではなく、ふっくらとした色面の連なりとして捉える手つきに、カトランならではの造形感覚が表れています。 背景を覆う濃淡二段のローズピンクと、卓を沈める深い臙脂の対比は、画面全体に柔らかな緊張感を与えています。装飾的でありながら騒々しさを感じさせないのは、色彩の選び方に一貫した詩情が流れているためでしょう。 カトランは日本にもたびたび足を運び、俳句に絵を添えた版画集を手がけるなど、この国の美意識とも深く響き合った画家でした。そうした感性は、本作に漂う静けさの中にも自然と息づいているように思われます。 花瓶と鉢という異なる器に宿った二種の花が、同じ卓の上でそれぞれの色を保ちながら共存する様子は、静物画でありながらどこか肖像画のような親密さを湛えています。 見る者の視線は、橙と紅のあいだをゆっくりと行き来しながら、色彩そのものが持つ静かな呼吸に耳を澄ませることになるでしょう。