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くるみの殻に刻まれた無数の細かな凹凸を、メゾチント特有の黒の諧調が丹念にすくい上げています。画面の大半を占めるのは、余白を切り裂くように走る一本の黒い帯と、その傍らにひっそりと置かれたくるみ一粒のみという、極めて凝縮された構成です。この対比によって、小さな対象物がかえって強い存在感を放っています。 浜口陽三は和歌山に生まれ、東京美術学校彫刻科に学んだのち、梅原龍三郎の勧めでフランスへ渡りました。帰国と渡仏を経て銅版画に取り組み始め、戦後まもなく独自の解釈からカラーメゾチントという技法を確立します。くるみやさくらんぼ、貝など身近で小さな題材を好んで選び、広い空間の中にぽつりと置くことで、静けさと緊張感を同時にたたえた画面を作り出しました。国際的な版画展での受賞を重ね、20世紀を代表する銅版画家としての評価を確立しています。 線と余白のみで構成された画面は、見る者の視線を静かにくるみへと導いてゆきます。