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本作「早春」は、四季の移ろいを見つめ続けてきた田淵俊夫の連作「四季」の一点として制作された作品です。 雪を残す山並みと、その麓に広がる水辺の風景を、静謐な筆致によって描き出しています。画面上部にそびえる山肌には、まだ雪が消えやらぬ谷筋が陰影となって刻まれ、冬から春への移ろいの気配を伝えています。中景から手前にかけては、霞のような余白が大きくとられ、水面に浮かぶ木立や岸辺の輪郭がかすかに滲みながら続いていきます。 この余白の広がりこそが、早春特有のやわらかな大気と、まだ寒さの残る静けさを感じさせ、観る者を穏やかな気持ちへと導いてくれます。 田淵俊夫は1941年、愛知県に生まれた日本画家です。東京藝術大学で学び、同大学の教授として後進の育成にも尽力しました。日本美術院同人として長く活躍し、日本芸術院会員にも選出されています。 樹木や水面、山河といった自然のモチーフを一貫して描き続け、対象を丹念に観察しながらも、装飾性を排した線描と余白によって、季節や時間の移ろいを感じさせる独自の画境を築いてきました。本作もまた、季節の変わり目にしか現れない繊細な空気感を、静かな構図のうちに定着させた一点といえます。







