作品番号:0017303
上村松篁 春秋花鳥四題-クチナシ・瑠璃鶲
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作品の解説
上村松篁「春秋花鳥四題 クチナシ・瑠璃鶲」は、文化勲章を受章した近代花鳥画の第一人者が手がけた木版画の連作のうちの一点です。薄墨を溶かしたような青灰色の背景に、クチナシの枝が画面を斜めに伸び、その先にとまる一羽の瑠璃鶲の姿が静かな存在感を放っています。 秋が深まるころ、クチナシの実は黄橙色に熟して縦に割れ、あざやかな橙赤の種子をあらわにします。本作ではその様子が細やかに描かれており、実が割れてのぞく果肉の赤みや、周囲に広がる青みがかった緑の葉が、季節の深まりを静かに物語っています。熟れた実の暖色と葉の清涼な緑との対比もまた、松篁ならではの冴えた色彩感覚のなせるわざといえるでしょう。 そこにとまる瑠璃鶲は雄で、頭部から背・尾にかけての深みある青が画面に清澄な輝きをもたらします。頬から顎にかけての灰黒、喉から胸に広がる淡い橙色、白い腹部と、部位ごとの色彩が版を丁寧に重ねることで精緻に刷り出されており、松篁が生涯をかけて追い求めた鳥の美しさが小さな画面いっぱいに息づいています。 松篁は奈良郊外のアトリエに千羽を超える鳥を飼育しており、「鳥の生活を理解しなければ、鳥は描けない」と語り続けた画家です。その言葉のとおり、鳥への深い愛情と長年にわたる観察の積み重ねが、本作の瑠璃鶲の生き生きとした佇まいに確かな説得力を与えています。美人画の大家・上村松園を母に持ち、伝統的な円山四条派の写生を受け継ぎながらも、近代的な構成と清雅な色彩感覚によって独自の花鳥画世界を切り開いた松篁。その品格と美意識の結晶ともいえる本作は、日常の空間に静寂と潤いをもたらしてくれる、大切に収蔵していただきたい一点です。