作品番号:0017284
斎藤三郎 カルメン
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作品の解説
斎藤三郎が描く「カルメン」は、スペインの情熱と憂愁をひとりの女性の佇まいに凝縮させた一作です。卓に頬杖をつき、ふと視線を遠くへ向けるその表情には、激しい恋に身を焦がす歌劇の主人公というよりも、舞台の合間にひととき素顔を見せる女性のような親密さが漂っています。スペインの女性たちの肖像を生涯にわたり描き続けた画家ならではの、円熟した眼差しが感じられる一作といえるでしょう。 黒のマンティラに緋色の裏地を重ねた装いは、画家がスペイン遊学を通じて磨き上げた色彩感覚を象徴するものです。深い黒と燃え立つような赤との対比が画面に劇的な緊張をもたらし、その奥に置かれた金色の水差しや唐草模様の鏡枠、卓を覆う黄金色の布が、落ち着いた輝きを添えています。豪奢でありながらどこか親密な室内の気配が、画面全体を包み込んでいるかのようです。耳元に挿された一輪の薔薇と、卓上に咲き乱れる白い薔薇のやわらかな色合いが、強く対比的な色面のなかに優しい抒情をもたらしている点も見逃せません。背景の暗がりから浮かび上がるように描かれた人物の輪郭や、衣のひだひとつひとつを丹念に追う筆致にも、画家の確かなデッサン力が表れています。 戦地での過酷な体験を経て独学で画業を確立した斎藤三郎は、復員後に二科会へ出品を重ね、1961年にはパリ賞を受賞、翌年には念願であったフランス、スペインへの遊学を果たします。以後、現地で見た女性や踊り子たちの姿は画家の重要な画題となり、数多くの作品に結実しました。本作にもその情熱と憧憬が息づいており、画家が長きにわたり見つめ続けたスペインへの想いを、厚みのある油彩の筆致とともに、いまここに鮮やかに伝えています。