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淡く霞む灰青色の空と、なだらかな山の稜線が溶け合う静謐な背景のなかに、一人の女性がたたずんでいます。目を伏せ、わずかに首を傾けたその姿は、思索にふけるようでもあり、夢のなかに迷い込んだようでもあり、見る者をやさしく非日常の世界へと誘います。 東郷青児の描く女性像の最大の魅力は、現実と幻想のあいだを漂うような独自の様式美にあります。本作においても、顔の輪郭や肌の質感は滑らかに単純化され、目鼻立ちは淡く溶け込むように処理されています。それでいて、薄紅色の唇や、繊細に描き出された指先には、確かな生命の息吹が宿っており、抽象と具象のあわいを絶妙に行き来するその筆致は、まさに東郷芸術の真骨頂といえるでしょう。 頭には淡い紫と白の花飾りをあしらったベージュのつば帽子をかぶり、白金色の髪が肩へとやわらかく流れ落ちています。帽子の花々の淡さが背景の霞んだ空の色調と呼応し、女性の姿全体がまるで山の気配と一体となっているかのような、詩的な統一感を生み出しています。画面下方に差し伸べられた手は、絵全体のなかでひときわ具体的な存在感を放ち、夢幻的な世界に静かなリアリティをもたらしています。 「山麓」という題名が示すように、背景に広がる山の裾野のおだやかな稜線と女性の姿は不可分に結びついており、人と自然が溶け合う東郷ならではの詩情が画面全体を満たしています。灰青・ベージュ・白を基調とした限られた色調のなかに、これほどの深みと温かさ、そして静かな気品を宿らせることができるのは、東郷青児という画家が生涯をかけて磨き上げた美の感覚があってこそです。 リビングや寝室など、日常の空間に飾ることで、その場にしっとりとした潤いと夢のような静けさをもたらしてくれる一枚です。サイズは6号(410×318mm)の油彩作品。右下には画家直筆のサインが書き入れられています。